「印刷ボタンを押したのに出てきません」 「特定の拠点だけ印刷が遅いんですけど……」
月曜日の朝一番、VDI管理者にとってこれほど聞きたくない言葉があるでしょうか。 たかが印刷、されど印刷。画面転送技術であるCitrixにとって、実は「印刷(紙への出力)」は最も鬼門となる機能の一つです。
特に1000名を超える大規模環境において、クライアントPCと同じ感覚でサーバーにプリンタードライバーを追加していくと、遅かれ早かれ「Print Spoolerサービスの停止」という悪夢を見ることになります。
本記事では、2万ユーザー規模のVDI運用を経験してきた筆者が、現場で遭遇した「Citrix印刷トラブルあるある」と、その諸悪の根源であるドライバー問題を解決するための「鉄壁のドライバー管理術(メーカー統一&Citrix UPS活用)」について解説します。
「印刷トラブル対応で一日が終わる」そんな日々から抜け出すためのヒントになれば幸いです。
1. Citrix印刷トラブル「あるある」3選
VDI管理者であれば、誰もが一度は冷や汗をかいたことがあるであろう、印刷に関連する代表的なトラブルを3つピックアップしました。これらは単なる「不具合」ではなく、Citrixの印刷アーキテクチャへの理解不足や、運用ルールの隙を突いて発生する構造的な問題でもあります。
事例1:あるはずのプリンターが表示されない(作成されない)
ユーザーから「いつも使っているプリンターが一覧に出てこない」という問い合わせが入るパターンです。 特に、PCの入れ替えや、クライアント側でプリンタードライバーを更新したタイミングで頻発します。
これは、クライアント側にあるプリンターをCitrixサーバー側で再現(オートクリエイト)しようとした際に、「サーバー側に合致するドライバーが見当たらない」ために発生します。
イベントビューアー(System)を確認し、イベントID 1111(メタファイルスプール…)などのエラーが記録されていれば、まさにこの現象です。数千台のPCがある環境で、個々のPCに入っているドライバーとサーバー側のドライバーを完全に一致させ続けるのは、まさに「賽の河原」のような終わりのない作業と言えます。
事例2:印刷ボタンを押してから紙が出るまで異常に遅い
「印刷ボタンを押したのに、忘れた頃に出てくる」「印刷中は画面が固まる」というクレームです。 これは、WAN回線(拠点間通信)を利用している環境でよく起こります。
原因の多くは「スプールデータの肥大化」です。 例えば、たかだか数MBのPDFファイルでも、プリンタードライバーを介して印刷データ(RAWデータやEMFデータ)に変換すると、数百MBの巨大なデータに膨れ上がることがあります。 この巨大なデータが、細いWAN回線を無理やり通ろうとするため、回線帯域を食いつぶし、印刷遅延だけでなく、他のユーザーのVDI操作(画面転送)まで遅くさせる「二次災害」を引き起こすこともあります。
事例3:Print Spoolerサービスが落ちて、全員印刷不能に
これが管理者にとって最も恐ろしい「悪夢」です。 特定のユーザーだけでなく、そのサーバーに収容されている数十名のユーザー全員が、一斉に印刷できなくなる現象です。
原因の9割は「行儀の悪いサードパーティ製ドライバー」です。基本的にビジネス向けのプリンタードライバーではあまり問題は起こりませんし、昨今では行儀の悪いドライバーは少なくなりました。しかし未だに発生する物です。
サーバーOS向けに最適化されていない、あるいは古いバージョンのプリンタードライバーが、Windowsの印刷管理サービスである「Print Spooler」を道連れにしてクラッシュすることで発生します。 一人のユーザーが特殊な印刷を実行した瞬間にサーバー全体が巻き込まれるため、影響範囲が広く、緊急対応(サーバー再起動やサービスの再開)を余儀なくされます。
2. なぜCitrixの印刷はトラブルが多いのか?
なぜ、普通のPC(ファットクライアント)では何の問題もなく印刷できるのに、Citrixになった途端にこれほどトラブルが増えるのでしょうか。その根本原因は、「サーバーOSのマルチユーザー環境」と「ドライバーの相性」にあります。
サーバーは「ドライバーの見本市」ではない
通常のWindows 10/11などのPCは、基本的に一人が使います。そこに数種類のプリンタードライバーが入っていても問題は起きにくいものです。 しかし、Citrix(XenApp/Virtual Apps)のサーバーは、Windows Server OS上で数十人がログオンして同時に使用しています。
ここに、A社の複合機、B社のインクジェット、C社のラベルプリンター……と、各拠点の要望に応えて多種多様な「ネイティブドライバー(メーカー製ドライバー)」をインストールしてしまうのが、トラブルの元凶です。
メーカー製ドライバーの中には、カーネルに近い部分で動作するものや、独自の監視ツールを常駐させるものがあります。これらがサーバー上で競合し(いわゆるDLL地獄)、メモリリークを起こしたり、スプーラーを不安定にさせたりします。 「サーバーを汚さない」ことこそが、VDI安定運用の鉄則なのです。
帯域とプロトコルの壁
前述の通り、印刷データは非常にサイズが大きくなりがちです。 Citrixの画面転送プロトコル(ICA/HDX)は、画面を綺麗に・速く送ることには長けていますが、その横で巨大な印刷データが流れると、帯域制御が難しくなります。 ネイティブドライバーを使うと、圧縮が効かないままデータが流れることが多く、これが「遅い」「切れる」の原因となります。
3. トラブルを激減させる「ドライバー管理術」の正解
個別のPC対応とは異なり、1000名規模のVDI環境では「いかにサーバー(VDA)にドライバーを入れないか」が安定稼働の鍵を握ります。私の経験上、有効なアプローチは以下の2点に集約されます。
- プリンターメーカーを統一し、ドライバーの種類を極限まで減らす
- トラブルの元凶である「ドライバーの競合」を物理的に回避する、最もシンプルかつ強力な方法です。 導入するプリンターメーカーを1社に絞ることで、管理すべきドライバーの数を減らせます。特に、各メーカーが提供している「共通ドライバー(Universal / Global Driver)」を活用するのがポイントです。
- 例: 富士フイルムビジネスイノベーションの「Multi-model Printer Driver 2」など。これは、1つのドライバーで同メーカーの複数の機種をカバーできるため、機種変のたびにドライバーを追加する手間がなくなります。また、メーカー統一はドライバー管理だけでなく、消耗品の在庫管理やIT統制(購買管理)の観点でも大きなメリットがあります。
- トラブルの元凶である「ドライバーの競合」を物理的に回避する、最もシンプルかつ強力な方法です。 導入するプリンターメーカーを1社に絞ることで、管理すべきドライバーの数を減らせます。特に、各メーカーが提供している「共通ドライバー(Universal / Global Driver)」を活用するのがポイントです。
- プリントサーバー+Citrix Universal Print Server (UPS) の活用
- オフィス内のプリンターがネットワーク接続されている場合、各VDIサーバーから直接印刷させるのではなく、「Windowsプリントサーバー」を構築して集約管理するのが最適な構成です。
これにより、ドライバーの追加・更新作業はプリントサーバー上だけで完結し、運用が劇的に楽になります。 さらに、ここにCitrixの機能である「Universal Print Server (UPS)」と「Citrix Universal Printer Driver(UPD)」を組み合わせて構成することで、VDA(Citrixサーバー)側へのネイティブドライバー導入が一切不要になります。
「VDAを汚さずに、メーカー固有の機能も活かしたい」。 そのジレンマを解決するのがCitrix UPDです。次項でそのメリットを詳しく解説します。
- オフィス内のプリンターがネットワーク接続されている場合、各VDIサーバーから直接印刷させるのではなく、「Windowsプリントサーバー」を構築して集約管理するのが最適な構成です。
Citrix UPD(ユニバーサルプリンタドライバ)とは?
Citrixが標準で提供している「汎用ドライバー」です。 これを採用するメリットは計り知れません。
- サーバーが汚れない(圧倒的な安定性)
- メーカーごとの専用ドライバーをサーバー(VDA)にインストールする必要がありません。サーバー内はCitrix純正のドライバーだけで済むため、競合やスプーラークラッシュのリスクが劇的に下がります。
- 管理工数の削減
- 新しいプリンターを買っても、サーバーへのドライバー追加作業が不要になります(クライアント側にドライバーがあればOK)。これだけで、情シスの作業負荷は半分以下になります。
- 帯域制御と高速化
- UPDを使用すると、印刷データはCitrixのプロトコル(EMF形式など)で圧縮されてサーバーからクライアントへ送られます。これにより、ネットワーク負荷が下がり、拠点からの印刷もスムーズになります。
「でも、専用機能が使えないんでしょ?」への回答
かつてのUPDは機能が貧弱で、ホチキス留めやセキュアプリントなどが使えないことがありました。しかし、現在は「Citrix Universal Print Driver」と「Citrix PDF Printer」の進化により、状況は変わっています。
現在のUPD運用では、クライアント側のドライバー機能を呼び出すことで、両面印刷、ホチキス、給紙トレイの選択など、日常業務で使う機能の99%は問題なく利用可能です。
最強の運用ポリシー:例外のみネイティブを許容する
私の推奨する運用ポリシーは以下の通りです。
- 基本ルール: 全てのプリンターは「Citrix UPD」でマッピングさせる。
- 例外ルール: 特殊な帳票印刷(ミリ単位のズレが許されない場合)や、UPDではどうしても動作しない特殊なプロッターなどに限り、検証の上で「ネイティブドライバー」のサーバーインストールを許可する。
「まずはUPDで試してください。ダメなら相談してください」というスタンスに変えるだけで、サーバーの健全性は驚くほど保たれます。
4. なぜ「Citrix UPS」なのか? 3つの決定的メリット
第4項で触れた「Windowsプリントサーバー」に、CitrixのコンポーネントであるUniversal Print Server (UPS) を導入する構成。なぜ、単なるWindows共有プリンターではダメで、UPSが必要なのでしょうか?
大規模環境におけるそのメリットは、大きく分けて「安定性」「パフォーマンス」「運用効率」の3点に集約されます。
メリット1:VDAサーバーの「聖域化」
これが最大の理由です。 通常のWindows共有プリンターとして接続する場合、結局クライアント(VDA)側にもネイティブドライバーが必要になるケースが多く、VDAのリソースや安定性を脅かすリスクが残ります。
しかし、Citrix UPS構成にすれば、VDA側は常に「Citrix Universal Printer Driver」だけで動作します。 重たいレンダリング処理や、サードパーティ製ドライバーの挙動はすべて「プリントサーバー側」にオフロード(押し付け)できます。
万が一、行儀の悪いドライバーが暴れてプリントスプーラーがクラッシュしても、影響を受けるのはプリントサーバーだけ。ユーザーが業務を行っているVDA環境は無傷で守られるのです。
メリット2:ネットワーク帯域の「爆食い」を防ぐ
Windows標準のプリント共有プロトコル(RPC)は、LAN内での利用が前提であり、帯域制御機能が貧弱です。そのままWAN越しに利用すると、印刷のたびに回線が埋まり、他のユーザーの画面操作まで遅延しかねません。
Citrix UPSを導入すると、VDAとプリントサーバー間の通信がCitrixのプロトコル(ICA/CGP)によって高度に圧縮・最適化されます。 「狭い帯域でも軽く、速く印刷データを送る」ことにかけては、Citrixの技術に一日の長があります。
メリット3:マスターイメージ管理からの解放
VDI管理者にとって、プリンターの入れ替え作業は意外と重労働です。 VDAに直接ドライバーを入れていると、新しいプリンターを1台導入するたびに、メンテナンス期間を設けてマスターイメージを更新し、展開し直す必要があります。
UPS構成(+セッションプリンターポリシー)であれば、ドライバーも設定もすべてプリントサーバー側で完結します。 VDAのマスターイメージには一切触れずに、即座に新しいプリンターをユーザーに提供できる。この「身軽さ」は、変化の激しいオフィス環境において強力な武器になります。
5. まとめ
VDIにおける印刷トラブル対応は、対症療法(スプーラーの再起動やドライバーの入れ直し)を繰り返していても、決して解決しません。 根本的な解決には、「VDA(サーバー)にいかにネイティブドライバーを入れないか」というアーキテクチャの見直しが必要です。
本記事のポイント
- トラブルの元凶はサーバー上の「ネイティブドライバー」
- 競合やリソース消費により、サーバー全体を不安定にさせる最大要因です。
- 対策①:入り口を絞る(メーカー統一)
- プリンターメーカーを統一し、共通ドライバー(Multi-model Driver等)を採用することで、管理対象を極限まで減らします。
- 対策②:処理を逃がす(Citrix UPSの活用)
- Windowsプリントサーバー+Citrix UPS構成にすることで、重たい処理をVDAから分離し、安定性と帯域効率を両立させます。
プリントサーバーの構築やUPSの導入は、初期構築の手間こそかかりますが、一度稼働すれば「運用負荷」と「深夜の緊急呼び出し」を劇的に減らしてくれます。
もし現在、頻発する印刷トラブルにお悩みであれば、まずは「サーバーに入っているドライバーの棚卸し」から始めてみてはいかがでしょうか。その一本のドライバーを削除することが、安定稼働への第一歩になるかもしれません。

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